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・「うつうつひでお日記」 吾妻ひでお(2006、角川書店)

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「失踪日記」刊行までの8ヵ月くらいの、作者の日々を淡々と綴った日記マンガ。
事件らしい事件が本当に何も起こらない、かえってリアルな日記。
「失踪日記」のようなドラマチックな展開を望むと物足りないかもしれないが、吾妻ファンならまず間違いなく楽しめる内容だろうし、マンガが好きだったり読書が好きだったりしたらいろんな角度から楽しめることだろう。


たとえばパラパラとページをめくると、本編と何の関係もないところどころに美少女イラストが入っていることがわかる。
コレが、作者がリハビリのために描いていたイラストなのか、最初から「ここにコレを描こう」と思っていたかどうかはさだかではないが、吾妻ひでおのマンガの性質上、ページをきちんと四段に区切って中に人物を描く方法が単調にならないためのアクセントとして、確信して使っているのは間違いないだろう。

日記マンガとは少し違うが、アクションシーンなどで変化のつけようのないタイプのマンガとして「ゴーマニズム宣言」などと比べると「読者を退屈させないための手法」の違いが見えて面白いかもしれない。

また、本書は日常よりもほとんど読書日記に費やされているのも特徴である。その読書内容を見てみると、意外にもかなりの頻度で重たい、読むとアテられそうなダークな作品が入っていることがわかる。
どうも作者の鬱は、読んだ物語が鬱だからといって発症するものではないらしい。
(私事で恐縮ですが、私はダークな話は見たり読んだりするのは極力避けてます。鬱病というわけではないがウツっぽくなるんで。)

さて、吾妻ひでお自身が「失踪日記」以前も「消えたマンガ家」ではなかったことは私は知っていたが(同人誌もちょくちょく買ってたし)、このままではファン層はせばまるばかり、ということも感じていた。
そうすると何らかのテコ入れが必要になる。逆に言うとテコ入れをすれば息を吹き返すマンガ家も多数いるだろうということも予想できる。

タレントの場合、そうした「テコ入れ」は結婚だったり離婚だったり、些末なところだと特定の球団のファンだったりということになる。
あるいは「エンタの神様」の波田陽区や桜塚やっくんみたいに仕掛けることもあるわけだが、マンガ家でも同じことをやればもっとどうにかなるんではないか? とも思った。

「失踪日記」が高い評価を得た後に依頼が殺到したことに対し、作中インタビューで吾妻ひでおは、
「それまでと比べて作品の内容がそれほど変わったわけじゃないのに、『失踪日記』がウケたことで仕事が増えて、なんかヘンだなあって気持ちがあって……。まぁ、依頼をしてきた編集の方がわかってないっていうのもあるんでしょうけど、だったらなんでその前に仕事くれないんだって、そういうウラミの心もあったりして(笑)」(P198)
……と言っている。しかしマンガ編集者としては、中堅作家の場合「この作家が新人をさしおいて掲載されねばならない理由」が明確でなければいけないのかもしれない。そうした「席」を勝ち取るには、もしかしたら作品本位の実力以外のものが必要になって来るのかもしれない。

最後に。
「ゴーマニズム宣言」を引き合いに出したが、アレももともとフィクション性の高い作品を描き続けてきた作者が、自分を全面に出したことがウケた一因だろう。「失踪日記」もまたしかり。
町山智浩さんのブログを見ると、アメリカではフィクションが売れなくなってきているというが、日本でも最終的にはノンフィクション、さらに自分を切り売りするような作品がもっとも注目度を集めるということなのだろうか?
もちろん、「失踪日記」は単なるノンフィクションを凌駕する魅力を持っていたのだけれども。

「失踪日記」を経た吾妻ひでおが、今後フィクション性の高い作品でヒットを飛ばせるかどうかは、個人的には注目したいのである。


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