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・「スクラップ学園 天真爛漫編」吾妻ひでお(2006、秋田書店)

Scrapgakuen

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コンビニペーパーバック調単行本。「『失踪日記』で話題の異才が放つ不明朗学園ギャグ!!」と表紙にある。

本書を読んで、あらためて確信した。吾妻ひでおはまぎれもなく天才だと。

今読んでムリヤリカテゴライズすれば、「不条理ギャグ」ということになるのだろうけど、
確か板井れんたろうのアシスタントだったという吾妻ひでおの絵柄やコマ割りは、60年代か70年代、わりとオールドタイプのものなのである。

しかしアイディアはものすごくぶっとんでいて、その丸め方が何とも言えず、いい。
矛盾した言い方になるが、ブン投げたような、あるいはそれでいて手堅くまとめたような、
1話1話がそんな印象なのだ。

また作者本人とはカンケイないことだが、
オタクネタがほとんど風化していないのにも驚かされる(ちなみに連載は80〜83年頃)。
いや、作者とカンケイあるかもしれない。
料理の仕方がうまいのだ。
それと、作者本人が80年代のオタクのコアな位置にいたということ、
同時に「失踪日記」に見られる人間観察が、第一世代のオタクたちにも向けられていたということは言えよう。
収録作「パトスってふんでも死なないのよね」は同人誌即売会ネタだが、今読んでもまったく古さを感じない。

ヒロイン・ミャアちゃんの話。
どんなに不条理なことが起こっても動じない、クールでドライなミャアちゃん。
キャラ造形的には、60年代の学園紛争などの狂騒が終わって70年代を経て、
いろんなことの「処し方」を身に着けた女性、という印象(もちろん、作者のキャラクターに本質的にそういうところがあるにせよ)。

とり・みきの「たまねぎぱるこ」というマンガのヒロインに似ている(まあ、とり・みきが影響を受けたんだろうが)。

偶然にしろ何にしろ、このような「カワイイけどドライでクールなヒロイン像」が、80年代以降はいろんなところを席巻するわけで、その先駆けということは言えると思うし、
ものごとを突き放して見せる80年代を経て、オウム以降のシニカルなキャラクターを経て、造形としては谷川流の「ハルヒ」に至るんじゃないかということを考えるのも、詰め将棋的には面白い題材である。

それにしても、ここ20年ほどでこれほどまでに評価が一定しないマンガ家も珍しい。
現在、二十代後半から三十代前半くらいの世代のマンガ読者にとって、吾妻ひでおは「失踪日記」まで何の思い入れもない存在だっただろう。
しかも、再評価は「失踪日記」というドキュメンタリータッチのマンガがきっかけなのだから、実に不思議と言えば不思議である(私小説的な作品をいくつか描いたことはあったにせよ)。

「失踪日記」は、それ以前の代表作と言われた「不条理日記」と関連してつけられたタイトルなのだろうが、
「不条理日記」の過剰な評価の高さが、逆に吾妻ひでおを忘れ去られた存在にしていたという面はあると思う(もちろん、本人が失踪してしまったことも大きな理由だろうけど)。

「どこから読んでもすぐわかる」、「すぐ読める」という点で言えば、
本作「スクラップ学園」(か、「やけくそ天使」)が、作者の代表作ということでいいのではないかと思う。

とにかくロリコンだとかえすえふだとか、作品そのものの周囲を取り巻いているものが多すぎた。
むろん、それらが「吾妻ひでお」を他のギャグマンガ家と区別する要素であったことも間違いないわけだが、

本書は作者が「失踪日記」という私小説的な作品で実質的な再デビューを果たした今こそ、読まれるべき作品であろう。

……と、ありがちな結びでまとめて見た。

それにしても、たぶん続編は出ないんじゃないかという気もする……。「失踪日記」から読み始めた人の中には、本書の内容がまるで理解できない人もいるだろうから。

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コメント

オタク描写が全然古びていないこともそうですが、
それより、ミャアちゃんのファッションが全然古くなっていない、
今でも通用しそうなものであるところが意外でしたよ。
いかに昨今、80年代ブームであるとは言え。

もっとも、巻末オマケの「ファッションチェック」ページのキャプションで
「スポーツも万能だよ」は、ないだろうと思いました。
そういうことは『あーもーやだなー体育祭』の巻を収録しておいてから、言ってほしい。

投稿: 石川誠壱 | 2006年6月12日 (月) 18時25分

はじめまして。

Googleで検索したら一番上だったので来ました。
ちゃんと紹介している人がいるのが嬉しいです。

失踪日記がなければ無かっただろうスクラップ学園天真爛漫編ですが、確かに失踪日記から入った人にはどうとれるのかと思いますね。

同人誌ネタが今でも通用するという件は、なんかそうですね。でもあの登場しているおっさんの年齢くらいに自分がなっているのが時間のおそろしいところだなぁと思っています(^_^;

P.S
トラックバック送信させていただきました。


投稿: さとぴー | 2006年6月13日 (火) 06時34分

石川誠壱さん>
ファッションがそんなに古びていない、というのは私も不思議に思っています。
秋田文庫版の第3巻なんか、チェックのミニスカートですからね。時代が一回転したんでしょうか。
(くつしたはルーズソックスかと一瞬、さらに驚きましたが、レッグウォーマーなんですね。)

さとぴーさん>
あのおっさんが、当時45〜50歳くらいだとすると現在、70歳くらいですか。
コミケの参加年齢の上限を忘れましたが、現在50歳以上の人の反応もあれに近いかもしれません。もうちょっと下だと、また違ってくるのかもしれませんが。

投稿: 新田五郎 | 2006年6月14日 (水) 09時17分

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投稿: eurpcn jcvxuoth | 2007年8月19日 (日) 20時03分

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