ホリエモンと福原愛
仕事場には自分以外に三人。
元ヤンの主婦のオバサン、
いつも一人でクスクス笑っているオタクなやつ、
「ランボー」を意識しているのか、頭にバンダナ巻いてTシャツの袖はひきちぎってあって、筋肉ムキムキであごがしゃくれている青年。
作業は、仮面ライダーのにせもののバックル部分にシールを貼ること。
作業場はバラックみたいなところ。
版権とかがうるさい今日この頃、こんなバッタモンつくっていいのかと思うが、それは謎。
作業は無言で行われる。
いちおうバイトのチーフは「ランボー」を意識している青年。一般旅行者も行かないような国に何度も行っているというからバイタリティはある。
しかしこの人の将来が心配だ。
元ヤンのオバサンもけっこう気さく。ただケータイに何度も子供から電話がかかってくるのが困りもの。
旦那はいるのかいないのかわからないが、子供が小さいのでランボー青年も携帯電話に出ることを止められないらしい。
やる気のないのはオタク青年。
いつも一人でくすくす笑っていて、昼休みに本を読んでいたから「どんな本読んでるの?」と聞いたら、
「どうせ言ってもわからないですよ」と言いながら見せてくれたタイトルが、司馬遼太郎の、
「燃えよ剣」
それ、ベストセラー作品じゃないの?
こういう「マニアぶっているけど薄い」オタク青年というのがいちばん始末が悪い。プライドばかり高くて、かといって賢明にコミニュケーションをとろうとしても得るものは少ない。
午前中の作業が終わり、昼休み。
作業場のバラックがあるところの、道路を挟んだところに昔ながらのパンとか牛乳とか雑誌とかが売っている店があって、そこでサンドイッチなどを買って昼食。
思い思いに、そこら辺に座って食べる。
元ヤンのオバサンは、家が近くで子供にご飯を食べさせに出ていくときもある。
ランボー青年は、「時間がもったいない」という風に「ウイダーインゼリー」みたいのを飲んだ後、すぐ読書に入るのが日課。
オタク青年みたいに娯楽のための読書ではないらしい。
何を読んでいるのか盗み見ると、
「第三世界の貧困がうんぬん」といった感じの本だった。
オタク青年はゲームをやっている。ニンテンドーなんとか、ってやつ。
私はバラックの周囲を散歩することに。
周囲には観て楽しいようなものは、何もない。
他に似たようなバラックが点在している。
いつか思いきって覗いたら、そこではウルトラマンのバッタもんのカラータイマーの部分に赤色を入れる作業場だった。
もしかして、どこもかしこもにせものをつくっているのか?
と思うが、頭がどんよりしているのですぐに忘れた。
駅前には個人経営のレンタルビデオ屋が一件、焼き肉屋一件、赤提灯が一件。
あとボロボロの建物で、いちおうキャバクラっぽいけど中で何をやっているのかわからない店が一件。
昼休みが終わったので、また作業に戻る。
夕方まで作業を続けて、午後五時半で終わる。
みんな、思い思いに帰っていく。
駅前にはファーストフードしかないが、一人で焼き肉を食いたいとも思えないので赤提灯に入って、いきなり焼き鳥と焼きおにぎりを頼んだらブルドッグ顔のおやじから少しイヤな顔をされた。
ビールは飲まなかった。
AVをレンタルして帰る。
家に帰ってテレビをつけたら、ホリエモンが出所していた。
ホリエモン、三ヶ月で二百冊も本を読んだという。
あまりの読書ペースの速さに、絶望的な気分になった。
いちばん感動したのは山崎豊子「大地の子」。
いつもながらの、正論過ぎて面白味のないホリエモンセレクト。
借りてきたAVをしばらく観て、何かの拍子でリモコンを押してしまい、そのときに放送されている番組がパッと映った。
卓球少女・愛が卓球をやりながら奇声をあげていた。
なんか、子供時代から少し成長して、何となくプクプクした、より気持ち悪い存在になっていた。
ヒヨコが成長してとさかだけが出ている、あの時期の所在なさを思い出させる。
布団に入って、死を考えた。
そうしたら、昼間シールを貼り続けたにせものの仮面ライダーが夢の中に出てきて、
「死んで花見が咲くモノか!!」
と、およそライダーらしくない古い言い回しで励ましてくれた。
それにしても、本当にあのバッタもんはどこに出荷されていくのだろう。
今日び、ファミレスでも正規の商品を売っているというのに。
もしかして、本当にああいうライダーがいるのだろうか?
そんなことを考えながら、眠りは深くなっていった。
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