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【書籍】・「封印作品の謎2」安藤健二(2006、太田出版)

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いつの間にか見られなくなってしまっているアニメ、マンガ、特撮。その理由を探るルポの第2弾。

今回取り上げられているのは、「キャンディ・キャンディ」、「ジャングル黒べえ」、「オバケのQ太郎」、「サンダーマスク」の4点。

もうね、読んでいくうちに泣けてくるんですよ。前作以上に、封印された理由の「どうにもならなさ」が浮き彫りになってきてしまって。

この中で、まずまず今後、何とかなる可能性があるのは「ジャングル黒べえ」だけじゃないですかね?

後はやっぱり、構造的、複合的な理由で封印されている。

マンガやアニメが巨大産業になっていったことが一因であるとか、コンテンツビジネスの整備化であるとか、そういうことが関わっているし、それに人々の感情的な部分がからんでくると、これはもうどうにもならないでしょう。

「封印」ということで真っ先に思い浮かぶ「差別問題」に関しては、今回は「黒べえ」が唯一関わっていると言えるのかな。

「ちびくろサンボ」の封印問題とも対比されて語られているけど、80年代のもろもろの差別糾弾、噂には知っていたし、それに対する抗議の声も知っていたけど、自分が当事者だったらどこまでつっぱれるかというのはわからないじゃないですか。

その辺も含めて泣けてくる。

「黒べえ」の項の最後に、サンコンさんに黒べえのアニメを見てもらって「差別だと思うか?」と筆者が聞くんですよ。

「ぜんぜん差別だと思わない。」ってサンコンさんが言う。

「日本に来たばかりのときは、日本人は黒人が嫌いなのかと思って黒人グッズなどに批判的だったけれど、日本人と接していくうちに考えが変わって、そう思わなくなった(大意)」的なことを言う。

サンコンさんの意見がアフリカの黒人全員の意見だとも思えないし、本書の演出としてのあざとさも感じるんだけど、ここでやはり泣けてしまうよなあ。

それだけのものが、私の知るかぎりアニメの「黒べえ」にはありましたしね。

もっと泣けるのが「オバQ」封印の経緯。

実は、本書を読んでも真相はサッパリわからない。だけど、わからないだけにたぶんどうにもならないんだろうな、ということだけはわかる。

そのせつなさに、泣けてくる。

さて、封印作品は、「封印されている」というだけでタブー視されたり、逆にまつり上げられたりするんで、私個人の、今回取り上げられた作品の「価値」をオレ基準で書いてみたい。

・「キャンディ・キャンディ」

本書の作者は、何となく本作には「古さ」しか感じていないようだが、私は「キャンディ」直撃世代。

小学生の頃、風邪をひいた妹に「何でもいいからマンガ買ってきて」と頼まれて、面倒くさいから「キャンディ」の2巻(笑)を買ってきて読ませたら「面白い! なんで1巻じゃないの!」って言われて、私もけっこう夢中になって読んだ。

少女マンガの、いい意味でのオールドスクールな魅力が総合的に詰まっている作品。

「オールドスクール」と言っても、いがらしゆみこの作風はたとえば「バレエもの」とか「かわいそうな少女もの」などの、「古い少女マンガ」とはまたちょっと違う魅力があった。

少女マンガの発展史としては、70年代から80年代にかけての、エンターテインメント路線の中間的な位置にある人なんじゃないかと思う。

本作が封印されることの懸念は、年月が経てば経つほど決定的に古くなってしまうタイプの作品だということ。

10年くらい経って封印が解かれても、歴史的な意義しかなくなってしまうだろう。

・「ジャングル黒べえ」(アニメ)

コレは再放送をけっこう見ていたから覚えている。

出崎統だったと知って納得。物語が進展し、黒べえが魔法を使うところがクライマックスとなって大騒動になる、という毎回のパターンは同じ出崎監督が関わったという「ド根性ガエル」にテイストが非常に似ていた。

後半からはライバルの、ちょっとインテリっぽいピリミー族がやってきて毎回ヘンテコな動物を呼びだして黒べえと対決する。

黒べえのおとうさんがやってくる回があって、ジャンボジェット機を鳥だと思ってロープでつかまえて、逃げようと思ったジェット機が空でグルグル回っていたシーンがあったと記憶する。

要するに、人間のプリミティヴなパワーでの文明批判をギャグでやっているという意味では映画の「クロコダイル・ダンディー」みたいな話。

出崎ファンなら、一見の価値アリだと思う。

・「オバケのQ太郎」

本書ではマンガ版「新オバQ」の方が面白いという評価だが、マンガ版「旧オバQ」はやはり藤子不二雄のヒット作であるということや、それ以前や同時代の他作家の似たパターン(普通の少年と不可思議な存在との交流)と比較することには意義がある。

「丸出だめ夫」とかね。

また、(他の作家のギャグマンガに比べて)スタイリッシュでありながら、高度成長期の日本が背景になっているところも見逃せない。

たとえば、旧オバQから「空き地の土管」の描写が見られ、それは70年代に入ってからの「ドラえもん」にも見られる。
このことは、藤子不二雄の感覚が70年代に入ってからも60年代頃の日常生活を意識していた証左ではないだろうか(かなり後になっても、作品の普遍性を保つためにわざとのび太の生活を時代に合わせて大きく変えることはない、みたいなことを藤子不二雄が言っていた記憶はあるが)。

反面、「ドラえもん」のもたらすガジェットは旧オバQ時代にはそぐわない。

オバQのまぬけさや化けられないという設定は、この時代の「不自由だけど楽しい」という感覚に裏打ちされていたような気がしてならない。

・「サンダーマスク」

90年代以降、伝説化してしまったと知って驚いた。

5歳くらいのときに毎週見ていたが、内容をまったく覚えていない。

だけど楽しく見てましたねー。手塚治虫のマンガ版も、ほとんど手塚を読んだことのない私でも買って読んだくらいだから、この作品には郷愁を感じます。

【参考】

「封印作品の謎」感想

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 「封印作品の謎2」安藤 健二/著読みました。  1で扱われた作品はほとんどが差別問題と表現の微妙な兼ね合いに基づくものだった。  今回取り上げられているのは、「キャンディ・キャンディ」「ジャングル黒べえ」「サンダーマスク」「オバケのQ太郎」の4作。  「オバケのQ太郎」が封印作品になっているとはかなり意外でした。「キャンディ・キャンディ」の原作者と漫画家の対立はそういえば何かあった... [続きを読む]

受信: 2006年3月24日 (金) 08時28分

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